主人公の感情をフィルターに、夫婦を追うカメラ。
ズームの反復と「カチカチ」という操作音が、不穏でありながら心地よく響く。
無駄を削ぎ落とした演出に一気に惹き込まれました。
彼女と歩いたわずかな時間が、彼に「体温」を与え、夢と現実の境界が揺らぎ始める。
他人の感情は読み取れるようで、読み取れない。
当人にしかわからない“存在の重み”が、彼の前に立ちはだかる。
その描写はスリリングでありながら、観る者の心にストレートに突き刺さる。
やはり、山城達郎監督の手腕は凄いです!
前田弘二(映画監督)
世の中なんかどうでもいい。他人の生活を覗くだけでいい。菓子パンを頬張り、ラムネをかじりながら、ひたすら覗き続ける。女がこっちに手を振っている。「見つけて」と囁く。青年は一人じゃいられなくなる。必死になる。涙ぐましくみっともなく悶絶する彼の姿はほぼオレやんと思った。
いまおかしんじ(映画監督)
江戸川乱歩の「白昼夢」「湖畔亭事件」を原案に、アルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』や黒沢清の『神田川淫乱戦争』さながらの状況が、息つく暇もなく展開していく。
『心平、』の山城達郎による、映画的煌めきに満ちた乱歩小説の新解釈。
暉峻創三(映画評論家/大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクター)
没後60年か… テレビがまだ十分普及していない時代に育った私たちの世代にとって、江戸川乱歩といえば「少年探偵団」「怪人二十面相」だ。しかし、大正から昭和に変わる頃のデビュー期には、何度もリメイクされた「屋根裏の散歩者」など猟奇的心理を扱ったものが多い。
当時、芥川龍之介が遺書に「ぼんやりした不安」との言葉を残して自殺したように、人々の間に得体の知れぬ不安感があったのではないか。
さて100年後になる令和の今、われわれの背後にはどんな不安感があるのだろうか。
令和の若手俳優たちがそれをどう演じるか? 前作「心平、」で東日本大震災後の被災者心理を追った山城達郎監督がどう描くか?
そして、観客であるあなたはどう感じるのか?
寺脇研(映画評論家)
ほとんどの殺人事件は人知れず行われる。犠牲者はそのとき、すでに自分が世界から暴力的に切り離されてしまったことに気づいて絶望のうちに死ぬ。だが、その一部始終を窃視症の人間が目撃していたとしたら? 『白昼夢』は「観察する」ことで自分を「世界から切り離して」いた青年が、「世界から切り離される」ことの耐え難さと直面させられる物語である。だが、そもそも誰も彼もがあらかじめ世界から切り離されて、互いに交錯することなく漂っているだけだとしたら、そのとき世界は恐怖そのものと化すのである。
高橋ヨシキ(映画評論家・アートディレクター)